医療安全『わかるまで 聞こう 話そう 伝えよう』の実践(JCHOニュース2016秋号特集)

JCHOが掲げる理念である「安心の地域医療を支えるJCHO」を実現するために、医療安全の推進は大切な要素のひとつです。
毎年度11月25日を含む1週間は、厚生労働省による「患者の安全を守るための共同行動(PSA:Patient Safety Action)」の一環として、医療安全推進週間が設けられており、今年度は、11月20日~26日がそれにあたります。この取組については、JCHOは後援団体となっており、各病院においても、さまざまな取組が企画、実施されています。
例年、厚生労働省から発出される医療安全推進週間ポスターには、必ず下図が挿入されていますが、その中には「わかるまで 聞こう 話そう 伝えよう」という言葉が記されています。
今回の特集では、JCHO病院で取り組んでいる「わかるまで 聞こう 話そう 伝えよう」に係る医療安全活動について、ご紹介いたします。
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「医療安全推進週間」について
*上記クリックすると厚生労働省ホームページへ接続します


目次

『院内ハザードマップ』による自主的な安全行動への働きかけ 北海道病院 医療安全管理者 早瀬 美香
医療者間コミュニケーションの強化への取組~チームステップスの導入~ 東京高輪病院 医療安全管理室 副看護師長 横山 みどり
地域薬局との連携推進の取組 金沢病院 薬剤科長 西上 潤
ICTラウンドにおける感染対策改善に向けての取組 滋賀病院 感染管理看護師(ICN) 長谷川 亜紀
模擬患者(SP:Simulated Patient)を取り入れた医療コミュニケーション研修 湯布院病院 医療安全管理者 麻生 真紀子



『院内ハザードマップ』による自主的な安全行動への働きかけ

北海道病院 医療安全管理者 早瀬 美香

北海道病院では、1日700人以上の患者さまや付添い者が外来にお越しになります。多くの方々が行き来する中、一人一人に転倒に関する注意をすることには限界があると感じていました。そこで、当院では院内の転倒・転落・衝突防止への取り組みとして、『院内ハザードマップ』を作成しました。
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この『院内ハザードマップ』は、当院の外来棟・病棟・検査棟において「歩行者が通行する際の視点の位置」「死角となる場所」「床面の材質」「人通りの多さ」「搬送用のベッドや車いす等が置かれやすい場所」「ドアの開閉状況」等を独自に調査し、転倒・転落・衝突の危険が潜む箇所をマップにしたものです。病院としては、調査結果から危険が高い場所に、衝突防止ミラーを設置し構造的な改善を図り、さらに患者さまや利用者が自ら危険を知り回避できるように、潜んでいる危険について写真と吹き出しでの注釈を示してイメージがしやすい仕様としました。この『院内ハザードマップ』は、外来の受付カウンターに設置している他、総合案内担当者がお配りしています。また、入院の際のオリエンテーションでご覧いただいたり、各ベッドサイドに設置してある「入院ファイル」にも綴り入院期間中繰り返し手にとって見ることができるようにしたりして活用しています。
この取組を行って以降、衝突事故の発生報告はありません。また、職員からも職員同士の衝突防止等にもつながっているという声が聞かれています。このように、『院内ハザードマップ』は、患者さんの安全だけではなく、院内を行きかうあらゆる皆様の安全に役立っています。



医療者間コミュニケーションの強化への取組 ~チームステップスの導入~

東京高輪病院 医療安全管理室 副看護師長 横山 みどり

医療安全の推進のために、医療者と患者間のみならず、医療者間でのコミュニケーションもまた重要な要素です。当院においても、医療者間のコミュニケーションエラーに関連したインシデントが報告され改善が必要と感じていました。時期を同じくして、医療安全対策室のメンバーが「チームステップス」のトレーナー資格を取得したこともあり、平成26年度から2年間、「チームステップス」を広めるための活動に取り組みました。
「チームステップス」とは、米国の国防省が開発した「チームとしてのよりよい実践と患者安全を高めるためのツールと戦略」です。
<チームステップスのツールの一例>
SBAR
2回チャレンジルール
相手に何かを伝えたい場合に、この順序に従って伝えることで、より分かりやすく伝えよう。
S:Situation「状況」
B:Background「背景」
A:Assessment「評価」
R:Recommendation「提案」
うまく伝わっていない場合には、2回はチャレンジして伝えよう。
相手に伝わるまで伝えよう。
まず、院内研修を開催しましたが、その内容は、概念の紹介に加え、好ましくない医療者間コミュニケーションがチーム力を低下させ患者の安全を脅かすという事例を紹介して危機感を共有し、さらに、場面を想定したシナリオについてグループディスカッションし、ツールや戦略を活用した改善例を寸劇で発表するというものです。参加者からは、「医療者間のコミュニケーションの重要性をあらためて実感した」「ツールは決して真新しいものではなく普段の実践の中にあることに気づいた」等の意見が聞かれています。20161025iryouanzen_takanawa
実践への適応としては、「SBAR」を心肺蘇生のトレーニングに活用したり、新入職員に「2回チャレンジルール」を推進する等行い、病院全体に医療者間のコミュニケーションの充実が患者の安全を守るために重要であることが浸透しつつあります。
今後もこの研修を継続し、情報伝達に起因するインシデントの減少を図ることで、安心・安全な医療を目指していきたいと思っています。



地域薬局との連携推進の取組

金沢病院 薬剤科長 西上 潤

JCHO理念に「地域医療推進のための連携」が掲げられていますが、医薬品の適正使用においては病院と地域薬局との連携が重要と考えています。一般に、病院と地域薬局の情報共有は、処方箋やお薬手帳、疑義照会(医師の処方箋に疑問や不明点がある場合、薬剤師が処方医に問い合わせて確認すること)等により行われていますが、地域の薬局にとっては限られた情報で患者さんの薬物療法に関わることになります。地域連携により患者さんの安心・安全な薬物療法に携わるには情報として不十分と感じています。そこで、病院と地域薬局との連携のさらなる強化を図るため、当院薬剤科では平成26年より、地域薬物療法SGD(スモールグループディスカッション)という研究会への参画を始めました。地域薬物療法SGDとは、病院の医師や薬剤師と地域薬局の薬剤師が、医師から直接話を聞くことで処方の意図を学び、双方の薬剤師が互いに取り組んでいる業務を紹介し合い、さらに一定のテーマに沿って討議し合うものです。過去4回のSGDのテーマは下記に示したとおりです。
全体のテーマ 討論のテーマ
第1回 服薬指導のための患者情報の共有 効果的で適切な服薬指導のための連携と患者情報の共有
第2回 副作用の対処 副作用の対処のための患者情報の共有
第3回 疼痛管理 お薬手帳と療養手帳
第4回 糖尿病と薬薬連携 医師から提示された症例について討論
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研究会では活発な意見交換がなされ、参加者からは「実際に処方している医師の顔を見て意見のやり取りができ良かった」、「病院と地域の薬局の情報共有の重要性が認識できた」などの意見が聞かれています。今後もこの活動を継続し、さらに病院と地域薬局の双方が「わかるまで聞こう・話そう・伝えよう」といった関係を深めて連携を強化できるよう推進していきたいと思っています。



ICTラウンドにおける感染対策改善に向けての取組

滋賀病院 感染管理看護師(ICN) 長谷川 亜紀

当院では、ICT(Infection Control Team:感染制御チーム)の活動の一環として院内ラウンド(巡回)を実施しています。
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ラウンドは、チェックリストでの点検を行い、なおも感染管理上、問題であると思われる点については、現場の感染リンクスタッフや所属長とディスカッションを行います。改善に向けての取組については、現場の感染対策担当者(リンクスタッフ)に依頼し、共に具体策を考えます。このように、現場に足を運び、問題点を共有することで、実情に合った対策を一緒に考え提案することが出来ます。
ラウンドは、健康管理センターや附属老人保健施設などでも実施しています。昨年度は、老健施設において、アウトブレイク防止に努めました。感染対策が実施できる環境づくりとして、各部屋の前に、防護用具のホルダーを設置しました。さらに、感染のリスクが高い排泄介助では、実際の手順を確認し手指衛生や防護用具の着脱のタイミングを指導しました。加えて、オムツ交換車による感染のリスクを減らすため、管理がしやすいワゴンタイプへの変更し、その片付けに関しても、いつ、どこで、誰が、どのように行うのを標準化し、細かな行動レベルでの改善を行いました。その結果、平成27年度はノロウイルスによるアウトブレイクの発生を防ぐことが出来ました。
感染を起こさないために、何をすべきかを伝え、理解してもらい、実践してもらうことが私達ICTの役割です。理想を押し付けるのではなく、現場と共に考えるICTを目指していきたいと思います。



模擬患者(SP:Simulated Patient)を取り入れた医療コミュニケーション研修

湯布院病院 医療安全管理者 麻生 真紀子

当院における医療コミュニケーションへの取り組みは、平成21年に「豊の国医療コミュニケーションの集い」(大分大学)に、多くの職員が参加したことから始まりました。
この集いは、‘やわらかな1.5人称(自分と相手の視点を行ったり来たりする捉え方)’‘聴くは効くに通ずる(傾聴)’‘コミュニケーションには癒しがある(単なる情報伝達ではない)’ことを基本に、コミュニケーションを医療において重要な要点とし、具体的な活動としては、模擬患者(以下SPという。)の育成や研修の開催等を行っています。
当院では、この活動に関連して、平成21年から医療面接教育の一環としてSP訓練を新入職員の研修や医学生の実習等に取り入れました。その目的は、患者と医療者との信頼関係を築くことにあります。実際には、まず、患者役、医療者役、観察者役の3人1組となり、シナリオを用いてロールプレイを行い、役柄を順に交代して、お互い感じた点や気づいた点など述べ合いフィードバックするという方法で行います。最後には、全員で訓練中に感じたこと等を語り合い貴重な体験を分かち合います。この訓練の利点は、繰り返し何度もでき、自身の傾向について気づきが得られるという点にあり、当院では、7年間、継続して実施し、その考え方が定着してきています。
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このコミュニケーションのあり方が,人間関係ひいては医療安全や医療の質に大きく影響するものと考え、今後も、人材教育の一環としてこの活動を継続し取り組んでいきたいと思っています。

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