認知症と地域包括ケア(JCHOニュース2017春号特集)

認知症高齢者の数は、平成24年で約462万人、平成37年には約700万人に増加し、65歳以上の約5人に1人に達すると推計されています。JCHO病院に通院、入院される患者様にも認知症を患っている方は多く、病院として全職員が認知症の方を理解し、適切に対応できることが求められています。
平成27年1月に国が策定した「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」では、認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会を実現することを目指しています。入院中でも認知症の方のそれまでの生活を大切にし、可能な限り在宅復帰をめざし、その人らしい生活を維持できるようなケアが求められています。JCHOの各施設においても、新オレンジプランにおける医療・介護分野の役割を担うべく、地域の一員として様々な事業に取り組んでいます。
新オレンジプランの「七つの柱」
① 認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進
② 認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供
③ 若年性認知症施策の強化
④ 認知症の人の介護者への支援
⑤ 認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進
⑥ 認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発及びその成果の普及の推進
⑦ 認知症の人やその家族の視点の重視

目次

認知症に強い病院を目指して 大阪みなと中央病院 看護部長 善家 かずみ
地域包括支援センター取り組み 可児とうのう病院 可児市土田地域包括支援センター 管理者 佐合 由美子
認知症初期集中支援チームの多職種との連携における活動 埼玉メディカルセンター 看護師 望月 成美
認知症疾患医療センターの取り組み 諫早総合病院 医療連携室 社会福祉士 土井 皓平


認知症に強い病院を目指して

大阪みなと中央病院 看護部長 善家 かずみ

大阪みなと中央病院の地域に向けた認知症サポーターポスター大阪市では高度成長期の人口流入や第1次ベビーブーム世代の高齢化により、全国平均を上回る速さで高齢者の割合が増加するとともに、認知症の高齢者が増加しています。このような背景の中、急性期病院では重症患者のケアが優先され認知症の患者様のケアが行き届いていない現状があります。
当院でも認知症を抱える患者様が常に2割程入院しており、毎日のように転落転倒、輸液ルートの自己抜去、安全の為の抑制、ミトンの着用という報告を受け看護者として心を痛めていました。現場の看護師は、業務をこなすことに精一杯で、見守り・寄り添うという看護の基本的な関わりができない現状がありました。

「やさしさと安心の医療で人々につくします」という病院の理念を実践するには、病院職員全員が認知症を理解し、患者様に寄り添う医療・ケアをできることが必要と考え、認知症サポーター養成講座を開催しました。講師として港区認知症初期集中支援チームの皆様に依頼し、全4回を通し医師や看護師をはじめとする病院職員の8割以上が受講することができました。認知症サポーターとして病室で活動している様子 現在では、オレンジリングを身に付け、サポーターとして認知症患者様に対して「見つめる事、話しかける事、ふれる事、立つ事」というユマニチュードの基本姿勢を実践し、チームで認知症ケアに関わる体制作りができてきています。今後は、認知症に強い病院を目指して、患者様、家族が安心できるような場所として、認知症カフェや認知症デイができる環境を作り、オレンジリングが繋がるような活動が出きればと考えます。大阪みなと中央病院は、病院から地域に歩みより、地域とともに成長できる病院を目指しています。

認知症サポーター
 認知症サポーターとは、認知症サポーター養成講座を受講・修了した方です。認知症に対する正しい知識と理解を持ち、認知症の人やその家族に対して出来る範囲で手助けする存在です。「オレンジリング」が目印です。病院職員が認知症サポーターになるだけでなく、サポーター養成講座の講師であるキャラバンメイトがいる病院では、地域住民に向けた講座を積極的に開催しています。


地域包括支援センター取り組み

可児とうのう病院 可児市土田地域包括支援センター 管理者 佐合 由美子

可児市オレンジプランのリーフレット写真可児市には地域包括支援センターが6か所あり、「可児市オレンジプラン」のもと、協力して認知症に対する取り組みを実施しています。
可児市の高齢化率は26%ほどですが、30年程前に名古屋近郊のベッドタウンとして造成された病院近隣の帷子地区には高齢化率が40%を超える地域もあります。平成28年度までは、土田・帷子地区の一部を担当する「可児市西部地域包括支援センター」として活動してきましたが、高齢者人口の増加による地域のニーズに対応するため、平成29年度からは担当地域を拡大し、それぞれの全域を受け持つ「土田地域包括支援センター」と「帷子地域包括支援センター」に分かれて、新たなスタートを切りました。
認知症に対する取り組みとして、定期的に地域の公民館や集会所に出向き、個別相談を受ける「もの忘れ・困りごと相談会」、「認知症サポーター養成講座」、「認知症カフェ」、認知症疾患医療センターの協力のもと「MCI(軽度認知症)予防講座」、半年間毎週コグニサイズをに取り組む「認知症予防教室」等を実施しています。
可児とうのう病院認知症カフェ談笑の様子可児とうのう病院認知症カフェレクレーションの様子「認知症カフェ」は帷子地区にある喫茶店の協力のもと、1か月に2回定期的に開催しています。認知症の当事者やその家族、認知症に関心がある方が気軽に集まり話をする場です。介護保険サービスの利用を拒否していた認知症の方が、カフェは毎回楽しみに参加しているというケースもあります。認知症の方や家族、地域の方が出かけられる場所が増えることの大切さを感じています。
病院という環境を活用した取り組みとして、「もの忘れ・困りごと相談」の開催、認知症啓発活動を目的とした「パネル展示」を行いました。地域の方々が訪れる病院という場所を活かし認知症を知るきっかけを作り、早期発見や認知症で悩みを抱えている当事者や家族の相談につながれば支援の手がかりになる可能性もあります。今後も地域での認知症に対する活動とともに、病院の場を活かした取り組みも続けていきたいと考えています。

認知症カフェ
 市町村ごとに設置を計画しており、その地域で必要とされている認知症カフェを実施することが求められています。認知症介護者が日頃のストレスを発散できる場所であったり、認知症本人の居場所であったり、認知症の方本人がカフェの運営に関わることもあります。


認知症初期集中支援チームの多職種との連携における活動

埼玉メディカルセンター 看護師 望月 成美

平成28年10月より当院では、認知症初期集中支援チームの活動が始まりました。当チームのメンバーは、認知症サポート医(神経内科)・看護師・介護福祉士からなります。支援の流れとしては、ご家族等から相談を受けた地域包括支援センター(以下、包括)からの情報をもとにアセスメントを行い、包括職員と共にご自宅へ訪問させていただきます。その後、多職種が集まるチーム員会議で支援方法を検討し、必要な医療や介護サービスの利用につながるよう、概ね6か月を目安に集中的に支援をしていきます。
埼玉メディカルセンター認知症初期集中支援チーム会議の様子 A氏は、「数年前から物忘れや受診拒否がある。一人暮らしなので心配」とご家族から相談を受け支援開始となりました。初回訪問時には、これまでの生活歴やご本人の思いを伺い、信頼関係が築けるように努めました。診察の結果、アルツハイマー型認知症と診断されましたが、在宅での生活を希望されているA氏の意思を尊重し、在宅環境を整えながらご家族や包括職員と見守りを中心に支援を行いました。その後、転倒や熱傷、失神発作等も出現したため当院へ入院となりましたが、入院中は認知症ケアチームも介入し、多職種で継続したケアを行うことで大きな混乱なく入院生活を送ることができました。ご家族からは「何年も家族でがんばってみたけれどなかなか受診できず不安が募るばかりでした。チームで関わってもらえて本当に良かったです」とのお言葉をいただき、チームの役割を再認識させられました。超高齢社会になり、認知症の人はますます増えてきます。認知症があっても住み慣れた地域の中で生活を継続できるように、また、患者や家族に寄り添った支援ができるように今後も活動を続けていきたいと思います。
埼玉メディカルセンター認知症初期集中支援チーム集合写真
認知症ケアチーム
認知症の人が入院治療を受ける場合、認知症状のため本人の意見が反映されない、身体疾患の治療が円滑に進まず入院日数が長期になる、自宅への退院が難しくなるなどの問題があります。平成28年度診療報酬改定で新設された「認知症ケア加算」は、このような患者さんに対し、専門知識を有した多職種によるケアチームが多角的な視点から適切に対応すること評価するものです。
認知症ケア加算1では、認知症サポート医、認知症看護認定看護師、専任のソーシャルワーカを中心としたチームが、入院前の生活状況等を踏まえたアセスメント、看護計画の作成、実施及び評価、身体的拘束を必要としない環境の整備、週1回以上の巡視などの活動を行うことが求められています。認知症ケア加算2では、小児科などを除くすべての病棟に、認知症患者のアセスメントや看護方法等に係る適切な研修を受けた看護師を複数名配置し、看護計画の作成、実施及び評価などの活動を行うことが求められています。JCHO病院では、14施設が認知症ケア加算1、26施設が認知症ケア加算2の体制を取っています。(平成29年1月現在)


認知症疾患医療センターの取り組み

諫早総合病院 医療連携室 社会福祉士 土井 皓平

社会の高齢化が進行していく中で諫早市・市医師会でも認知症対策を進める必要があるという機運が高まり、県へ働きかけ平成26年10月地域型認知症疾患医療センターの指定を受けました。今回は院内外での取り組みについて紹介いたします。
諫早総合病院認知症カフェオレンジカフェの脳トレ風景 地域支援活動として認知症の方が地域で安心して生活できるような支援を目的とした活動を行っています。認知症に関する問題の中でも、重要な事は受診やサービスに繋がりにくいという入口問題です。そこで、当センターでは問題解決のため市薬剤師会へ働きかけ「認知症対応力向上研修」を行いました。これにより約4割の調剤薬局で薬剤師が認知症に対応する相談窓口を設置しシンボルマーク(図1)を表示しました。諫早総合病院図1シンボルマーク、図2平成28年度認知症ケア加算算定数
また、市民ボランティアの参加を促し、認知症の方と家族の憩いの場である「認知症カフェ」の支援も行っています。
また、周辺症状等により適切な医療を提供しにくい場合があります。そうした事態を防ぎ、病棟看護師の対応力を向上させるため多職種で「認知症ケアチーム」を作り、毎週1回病棟内のラウンドを行っています。看護師を対象にアンケート調査を行ったところ、73%が認知症に関する知識が向上し、ラウンドにより周辺症状が減少したと95%が感じているという結果になりました。患者様家族からは「色々と不安はあるが、相談できる場があるだけで気持ちが楽になる」という言葉も頂き、当院の医療の質も向上しています。また、経営上もこの活動を通して認知症ケア加算1の算定(図2)で貢献しています。(年間約260万円)
今後、地域での認知症対策を展開する時代の中で、JCHOが掲げる理念に基づき、地域との連携を深め、常に時代が求める活動の前線を歩いていきたいと考えます。
諫早総合病院認知症ケアチーム集合写真

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