感染症の予防と対応~感染症の予防と病院に来るときにご協力いただきたいこと~(JCHOニュース2017秋号特集)

感染症は、うつる可能性がある病気です。
冬はインフルエンザ、ノロウイルスが流行する季節です。
自分がインフルエンザに感染していれば、周囲の人にインフルエンザをうつすかもしれません。
インフルエンザと診断されたら、病院を受診する時には、周囲の人にうつさないようにする対策が必要です。
大阪病院中村先生顔写真
大阪病院 内科 感染症担当部長
中村 匡宏
■ インフルエンザに似た症状の感染症
 患者さまが受診する時、最初からインフルエンザと診断されて受診するわけではありません。インフルエンザと同様に発熱と鼻汁、咽頭痛、咳などの気道症状で発症する病気は他にもたくさんあります。コロナウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ライノウイルス、RSウイルスなどのウイルスや溶連菌、マイコプラズマなどの細菌でもインフルエンザ様の症状をきたすことがあり、これらも同様に人に感染します。逆に、高熱がなく、軽い鼻汁と咳だけで、インフルエンザらしくない症状でも、実際はインフルエンザだということもあります。症状だけで原因体を特定することは難しいです。

■ 感染症が成立する3つの要素
 原因体が分からなくても、感染している人が行う感染対策は同じです。感染が成立するには、病原体、感染経路、感染しやすい人の3つの要素が必要ですが、病原体がいて、感染しやすい人がいても感染経路を遮断すれば、感染は成立しません。

■ うつらない・うつさないための基本 ~マスク着用と手洗い~
 インフルエンザもその他の病原体も唾液や鼻汁などの気道分泌物を介して感染します。つまり、気道分泌物を周囲に拡散させなければ、これらの感染は防げます。そのためには、まず、病院を受診する時に咳や鼻汁などの気道感染徴候のある方はマスクを着用して下さい。それだけで飛沫感染する病原体だけではなく、麻しん(はしか)や結核のような空気感染する病原体の予防策にもなります。マスクを着用していない時に咳やくしゃみをする時は、ティッシュやハンカチで覆って、使用したティッシュはなるべく早くゴミ箱に捨てます。ティッシュやハンカチがない場合は、腕や服の袖で覆って、手が汚染されないようにします。手が気道分泌物で汚染された場合は手を洗います。
 ノロウイルスも同様です。ノロウイルスは吐物や便からうつりますが、これはロタウイルス、サルモネラ、カンピロバクターなど他の病原体でも同じです。吐物や便に直接触れなくても、病原体で汚染された手で触れた物から間接的に感染することがあります。排便後にしっかりと手を洗って、菌やウイルスが周囲に付着しないようにすることが大切です。
 また、病院では自分が他の病原体に感染するリスクもあります。マスクを着用したり、トイレの後に手を洗ったりすることは自分が病原体をもらうリスクを低くし、予防にもつながります。他人への配慮が結果的に自分の身を守ることになります。

■ 病院に来るときにご協力いただきたいこと
 今年は麻しんが流行しています。初期症状はインフルエンザと似ている部分があり、感染力はかなり強いです。現在、国内由来の麻しんはなく、すべて海外からの輸入例です。海外渡航歴やご家族に感染症の発症がある場合は、あらかじめ病院に連絡をしていただいた方が良いです。
また、面会等でご来院の際は、マスクの着用と手洗いの実施、特に流行期は小さなお子様のご面会は避ける等のご協力をお願いいたします。

JCHOの各病院では、感染症の予防のために、さまざまな取り組みを行っていますので、ご紹介します。
行政と連携した新型インフルエンザ訓練の実施 千葉病院 感染管理認定看護師 斉藤 博子
手指衛生への取り組み~安心・安全な清潔な手で医療を提供するために~ 桜ヶ丘病院 感染管理認定看護師 山梨 和子
地域の保健所と協同した学校現場における吐物処理実技研修会の実践 大和郡山病院 感染管理認定看護師 中川 佳子
入院患者を対象とした症候群サーベイランスの実践~冬季に流行する感染症の拡大防止の取り組み~ 天草中央総合病院 感染管理認定看護師 荒木 直美



行政と連携した新型インフルエンザ訓練の実施

千葉病院 感染管理認定看護師 斉藤 博子

 「新型インフルエンザ等対策特別措置法」施行を受けて(平成25年4月)全国の各自治体が対策訓練を行っていますが、今回千葉市より「新型インフルエンザ等対策訓練(医療機関実働訓練)」の実施依頼をいただき思いがけず貴重な経験ができました。
 当院は新型インフルエンザ等帰国者・接触者外来設置協力医療機関でしたが、実際は感染症患者を隔離する外来設備も無く、当初は率直に困惑しました。しかし、むしろこれを感染対策の体制整備の好機と考え、平成29年1月19日に対策訓練を行いました。行政が患者背景を、当院が訓練シナリオを作成し、模擬患者の受診から診察終了までシミュレーションを行いました。
 訓練までに行政機関との会議を5回、院内会議を4回、行政機関と合同予行練習を1回実施しました。千葉病院 インフルエンザ訓練の様子貴重な経験を多職種で共有するため、医師・看護師・薬剤師・放射線技師・事務など当院職員だけで、実診療で予想される必要人数の3倍以上である50人が参加しました。他院見学者に模擬患者をお願いし、訓練後は参加者一同で評価を行いました。全てシナリオがあったにもかかわらず様々なトラブルが生じ、実地ではさらに混乱が生じるのが予想され、それを体感できたことは非常に有意義だったと思います。また、参加者全員が真摯に取り組み協働したことも得難い経験になりました。
 今回の訓練をとおし、行政との連携も深まり、院内の感染防止に係るチーム力を高めることができたと思っています。



手指衛生への取り組み~安心・安全な清潔な手で医療を提供するために~

桜ヶ丘病院 感染管理認定看護師 山梨 和子

桜ヶ丘病院 手指衛生実践評価の様子 当院では、例年、手指衛生実践評価について全職員を対象に行っています。特にインフルエンザやノロウイルスによる感染が流行する時期は、医療従事者の手がウイルスを運ぶ担い手になる可能性が増えるので、医療従事者の手が清潔であることは、安心・安全な医療を提供するために重要です。

 当院では、感染拡大の防止に備え、医療従事者に手指消毒剤の個々の携帯を義務付け、手指消毒の強化を図る取組を行っています。桜ヶ丘病院 手指消毒剤の個人携帯の様子使用にあたっては、いつ使うかという点に焦点を当て、WHO手指衛生5つのタイミングに基づいた勉強会を開催し共有しています。さらに、実践状況の評価として、毎月感染対策委員会のメンバーが各部署のスタッフ個人ごとの手指消毒剤の消費量チェックを行っています。その結果をもとに、再度の教育等を重ね、全職員の清潔な手指の保持を推進しています。こうした取組等を通じ感染防止が担保できています。
 また、当院では、地域への貢献の一環として、毎年約10校30余名の中学生の職場体験を受け入れています。その実習の中でも、自分が何気なく触った椅子などにブラックライトを当て人の手から周囲が汚染される場面等の体験学習をしてもらうなど、手指衛生の重要性を伝えています。
 感染防止の第一歩は手指衛生から。今後もこの取組を継続し安心・安全な手で患者さまに対応したいと思います。



地域の保健所と協同した学校現場における吐物処理実技研修会の実践

大和郡山病院 感染管理認定看護師 中川 佳子

 冬季感染症の流行期に小児科外来を受診する子供たちの背景には、学校での集団発生が起こっている場合が多くあります。学校現場も病院と同様に集団生活の場であり、地域の学校現場における感染制御に当院で実践している感染防止技術・知識が貢献できるのではないかと考え、平成29年1月、市内の幼稚園・小学校6校の教職員80名を対象に地域の保健所と協同して研修会を開催しました。
 保健所から感染担当者1名、病院からは感染管理認定看護師1名が直接学校現場へ出向き、実技を中心とした研修会を行いました。大和郡山病院 実技研修会の様子研修内容は、学校現場で一番要望の多かった吐物処理の方法と、それに伴う手指衛生(手洗い方法)について体験していただき、研修後のアンケートでは、90%以上の方が「理解できた」と回答されました。
 また、「実際に体験できてよかった」「このような研修会を定期的に行ってほしい」「インフルエンザ等他の感染症の研修も開催してほしい」等のご意見をいただきました。 
 開催に携わった病院としても、直接、教員の皆さんと意見交換できたことで、学校の現状や集団発生に至る問題点等を確認することができ、多くの学びを得ることができました。また、病院が行う地域での活動には、保健所等の公的機関との協力が必要であることも再認識し、地域における病院の在り方・役割を考える機会となりました。今後も、地域に貢献できる病院として役割を発揮していきたいと思っています。



入院患者を対象とした症候群サーベイランスの実践~冬季に流行する感染症の拡大防止の取り組み~

天草中央総合病院 感染管理認定看護師 荒木 直美

 冬季に流行する代表的な疾患にインフルエンザやノロウイルスによる感染性胃腸炎があげられます。流行期間中は、病院職員は特に緊張して対応していますが、入院される患者さまや同居されているご家族がインフルエンザやノロウイルスに感染していた場合、患者さまご本人の治療に影響を及ぼすだけでなく、他の患者さま等に感染が拡大する危険性があるため、入院前に必要な情報を得て水際で適切な対応を行うことが重要です。
天草中央総合病院 受付風景 当院では、平成29年1月から、予定入院患者さまを対象とした症候群サーベイランスを開始しました。サーベイランスとは「注意深く観察すること」です。その方法はさまざまですが、当院では特に、入院される患者さまがインフルエンザやノロウイルス等に感染していないかについて入院前に鑑別するシステムを開始しました。実際には、入院予定の患者さまが来院された際、受付で体温を計測し、質問票シートに記入していただきます。天草中央総合病院 質問票シート質問票シートには、感染症の症状(発熱、咳、鼻水、のどの痛み、関節痛などの風邪症状、吐き気、嘔吐、下痢等の腹部症状)の有無、同居しているご家族が感染症にかかっている状況等をお伺いしています。この段階で一項目でも該当した場合には、主治医による診察と必要な検査を行い、結果により適切な対応を講じるということを実践しています。
 このシステムの実践にあたっては、患者さまやご家族から適切な情報を提供していただくことが重要です。今後も患者さまやご家族のご協力を得ながら、患者さまが安心して療養できる環境を整えられるよう、このシステムをより充実させていきたいと考えています。

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